【質問】文字サイズ変更ボタンを提供しなければいけないの?

【回答】アクセシビリティ確保のためには、必ずしも必須ではありません。

Webページの文字サイズが小さいとき、ユーザーが好みの大きさに変更できるのが、Webのよいところです。近年、ブラウザはズーム機能を提供しており、Webページの表示を拡大できます。わざわざWebページ側で似たような機能を提供する必要はないでしょう。また、スマートフォンやタブレット端末で表示する際は、ユーザーが必要に応じて画面を拡大できるようにします(user-scalable=noを使用しない)。

「文字サイズ変更ボタン」というのは、Webページのヘッダー部分で良く提供されている[小][中][大]のようなボタンで、ユーザーがWebページのテキストの文字サイズを変更できます。日本のWebサイトでは、何かのランキングでこの文字サイズ変更ボタンの有無が評価項目の一つになっていたこともあり、一時期急速に普及したといわれています。

しかし、そういった文字サイズ変更ボタンを使って、実際にテキストの文字サイズを大きくしてみようとすると、1段階だけしか大きくならない、しかも文字サイズがほとんど変わらないケースが少なくありません。そのような場合、ユーザーにとって意味のある機能といえるでしょうか。

テキストの文字サイズ変更については、日本工業規格『JIS X 8341-3:2016』に次のような達成基準があります。

1.4.4 テキストのサイズ変更の達成基準(レベル AA)
キャプション及び文字画像を除き,テキストは,コンテンツ又は機能を損なうことなく,支援技術なしで200 %までサイズ変更できる。

JIS X 8341-3 / WCAG 2.0「1.4 判別可能のガイドライン」

まず「支援技術なしで200%まで」となっているのは、それ以上の拡大率が必要なユーザーは、画面表示を拡大する支援技術(画面拡大ソフトウェアやOS標準の画面表示拡大機能)を使用していると考えられるためです。また、200%以上の拡大率では、テキストの文字サイズだけではなく、画面全体をそのまま拡大して表示したほうが画面を閲覧しやすいというのも理由の1つです。

そもそも、文字サイズを変更する機能は、Webページではなく、ブラウザが提供すべきものだといえます。

コンテンツを拡大縮小することは、第一にユーザーエージェントが果たすべき役割である。(中略)利用者がユーザーエージェントの拡大縮小機能を使用できない場合、コンテンツ制作者は、HTML コンテンツでこの達成基準を満たすのにユーザーエージェントに依存することはできない。

WCAG 2.0 解説書「テキストのサイズ変更:達成基準 1.4.4 を理解する」

ユーザーエージェントというのは、ブラウザや支援技術(スクリーンリーダーや点字ディスプレイなど)を指します。Webページが文字サイズ変更ボタンを提供すべきケースとしては、例えば文字サイズを200%まで拡大(ズーム)できる機能がないブラウザを対象にしている場合です。以前はIE 6がその代表例でした。

そうではないかぎり、先ほどの達成基準を満たすためにWebページがやるべきことは、ブラウザのズーム機能を用いて200%まで段階的に拡大していったときに、コンテンツの閲覧や機能の操作に支障がないようにすることです。少なくとも、『JIS X 8341-3:2016』に準拠するために、必ず文字サイズ変更ボタンを提供しなければいけないということではありません。

文字サイズ変更ボタンを提供する場合は…

以上のことをふまえた上で、それでも文字サイズ変更ボタンを提供する場合は、少なくとも次に挙げる5つの事項に留意しましょう。

  • 最大で200%まで文字サイズを変更できるようにする
  • 200%まで段階的に拡大できるようにする(例:120%、140%、160%、180%、200%)
  • Webページのヘッダー部分などの分かりやすい位置に配置する
  • ボタンの前景色と背景色のコントラスト比を4.5:1以上にする
  • キーボードだけでも操作できるようにする

ブラウザにズーム機能があることを知らないユーザーもいるとすれば、文字サイズ変更ボタン自体は全く無意味とは言えません。ただ、冒頭でも述べたように、文字サイズがほとんど変わらないケースをよく見かけます。そういった場合は、むしろマイナスの印象を与えてしまい、かえって逆効果になるので注意が必要です。