アクセシビリティとユーザビリティ
よく聞かれる質問の1つに「アクセシビリティとユーザビリティの違いは何ですか?」というのがあります。
一言で説明するとしたら、アクセシビリティは「そもそもユーザーが使えるかどうか」。それに対して、ユーザビリティは「まずアクセシビリティが確保されていてユーザーが使える状態であるという前提の上で、さらにどれだけ使いやすいか、分かりやすいか」といったところでしょうか。また、ユーザビリティは特定の状況や目的のもとに評価するという点が、アクセシビリティとはやや異なるところです。
ユーザビリティとは?
では、ユーザビリティとは何でしょうか? 例えば、日本工業規格の『JIS Z 8521:1999』では、次のように定義されています。
3.1使用性(usability) ある製品が,指定された利用者によって,指定された利用の状況下で,指定された目的を達成するために用いられる際の,有効さ,効率及び利用者の満足度の度合い。
3.定義|日本工業規格「JIS Z 8521:1999」
『JIS Z 8521:1999』は、国際規格の『ISO 9241-11:1998』の一致規格ですので、この定義は世界共通といえます。ユーザビリティを日本語で「使用性」としていますが、「可用性」という訳語を用いることもあります。
一言で言うなら、やはり「使いやすさ」や「分かりやすさ」であり、結果としてユーザーの満足度を問われるのが、ユーザビリティです。そして、特定の目的を持った特定のユーザーと特定の利用状況において評価されるという点が、ユーザビリティの特徴といえるかもしれません。
また、Webユーザビリティ研究の第一人者であるJakob Nielsen博士は、著書でユーザインターフェイス(UI)のユーザビリティには、次の5つの構成要素があるとしています。
- 学習しやすさ(Learnability)
- システムは、ユーザがそれをすぐ使い始められるよう、簡単に学習できるようにしなければならない
- 効率性(Efficiency)
- 一度学習すれば、あとは高い生産性を上げられるよう、効率的に使用できるものでなければならない
- 記憶しやすさ(Memorability)
- ユーザがしばらくつかわなくても、また使うときにすぐ使えるよう覚えやすくしなければならない
- エラー(Errors)
- エラーの発生率を低くし、エラーが起こっても回復できるようにし、かつ致命的なエラーは起こってはならない
- 主観的満足度(Satisfaction)
- ユーザが個人的に満足できるよう、また好きになるよう、楽しく利用できなければならない
書籍『ユーザビリティエンジニアリング原論』(日本語訳『Usability Engineering』)
アクセシビリティとユーザビリティの違い
では、「アクセシビリティとユーザビリティの違いは?」となると、ユーザビリティテストを行うたびに実感することがあります。
ユーザビリティテストというのは、例えばWebサイトであれば、そのWebサイトのターゲット層と合致しているユーザーにモニターとして協力してもらい、実際に操作してもらいながらWebサイトの問題点を抽出する作業を指します。
アクセシビリティの問題として発見されるのは、ユーザーがそもそも情報を取得できない、または操作できないことです。そして、それは同じ属性のユーザーグループであれば、ほとんどのユーザーに共通しています。例えば、「画像に代替テキストがないためにスクリーンリーダーでは理解できない」、「キーボードで操作できない」、「動画にキャプション(字幕)がないために音声を聞けない場合には理解できない」といったことが挙げられます。
それに対して、ユーザビリティの問題として見つかるのは、使いにくい、分かりにくいといったことなのですが、これは同じ属性のユーザーグループであっても、ユーザーによって評価が分かれることがあります。例えば、「文章が長いのに段落分けされておらず、小見出しもない」、「テキストリンクに下線がないため、どれがリンクなのか分かりづらい」、「ボタンのアイコンにテキストのラベルがないため、何のボタンなのか分かりにくい」といった問題がよく見つかります。
WCAGワーキンググループの判断基準
ちなみに、W3Cでアクセシビリティのガイドラインを作成しているWCAGワーキンググループでは、達成基準などの議論をしているとき、それが障害のあるユーザーだけに特有の問題であればアクセシビリティの問題として位置付け、障害のないユーザーにも共通する問題はユーザビリティの問題だという線を引いていたりします。後者の場合は、ガイドラインの達成基準としては採用されないことになります。
ただし、アクセシビリティのガイドラインを作成するときは別として、Webコンテンツを制作するときには、この線引きはあまり意味を成しません。なぜなら、Webコンテンツを制作する目的は、アクセシビリティのガイドラインを満たすことではなく、ユーザーがタスクをより効率的に完了できるようにして、そのWebサイトやアプリケーションの目標を達成することにあるからです。
アクセシビリティとユーザビリティの共通点
そもそも、アクセシビリティとユーザビリティの間には、明確な線引きがあるわけではありません。むしろ、オーバーラップするところが少なくないのです。
このガイドラインは,加齢によって能力が変化している高齢者にとってもウェブコンテンツをより使いやすくするものであるとともに,しばしば利用者全般のユーザビリティを向上させる。
0B イントロダクション|日本工業規格「JIS X 8341-3:2016」
アクセシビリティのガイドラインを満たすことによって、それがユーザビリティの向上につながるというケースが多々あります。特に、次に挙げる項目は『JIS X 8341-3:2016』の達成基準に関することですが、全てのユーザーにとってのユーザビリティ向上にも通じるところがあります。
- ページタイトルは、Webページの内容が分かるように記述する
- リンクテキストは、リンク先が分かる文言にする
- 音声や動画を自動的に再生しない
- キーボードでも操作できるようにする
- 制限のある時間内での操作を要求しない
- サイトマップを提供する
- サイト内検索機能を提供する
- エラーメッセージは、エラーの内容と指示を分かりやすく説明する
- 共通した機能の見た目やラベルには、一貫性を持たせる
- ナビゲーションには、一貫性を持たせる
- Webサイト内での現在位置が分かるようにする
その他にも、UX(ユーザーエクスペリエンス)を向上させるためのデザインのTipsとして挙げられる項目にも、アクセシビリティのガイドラインとの共通点を見つけることができます。ユーザーの「○○できない」、「○○しづらい」を「○○できる」、「○○しやすい」にするのがアクセシビリティだと考えれば、アクセシビリティを確保すれば自ずとユーザビリティの向上にもつながるといえます。