時代や社会からの要請

Webアクセシビリティには、時代や社会からの要請であるという側面があります。

海外諸国で当たり前になりつつある法律による義務化

「法律」といわれると、何だからピンとこないかもしれません。でも、現実のこととして、ほとんどの先進国ではWebアクセシビリティの確保を法律によって義務付けています。これは近年、「Webアクセシビリティ」が障害のある人の権利の1つだと捉えられるようになってきているからです。

アメリカ、オーストラリア、イギリスなどをはじめ、諸外国では以前から障害があることを理由とした差別を禁じる法律がありました。さらに、国連の『障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)』によって、各国で国内法の整備が進められるようになりました。

国連の『障害者の権利に関する条約(略称:障害者権利条約)』には、次のような条項があります。

第九条 施設及びサービス等の利用の容易さ
2 締約国は、また、次のことのための適当な措置をとる。
(g) 障害者が新たな情報通信機器及び情報通信システム(インターネットを含む。)を利用する機会を有することを促進すること。

障害者の権利に関する条約(和文)|外務省

この条約を批准するにあたり、各国では国内法の整備が進められてきました。今では先進国と呼ばれる国々を中心にして、少なくとも公的機関のWebサイトに対しては、アクセシビリティの確保を法律によって義務づけることが当たり前になってきています。

中には、カナダ(オンタリオ州)や韓国のように、民間の企業に対しても義務化している国も出てきています。2016年5月には、EUでもWebアクセシビリティの確保を法律で義務化することが決議され、各国で法整備が進められようとしています。

Webにアクセスできることは「人権」の1つという考えかた

It is essential that the Web be accessible in order to provide equal access and equal opportunity to people with diverse abilities. Indeed, the UN Convention on the Rights of Persons with Disabilities recognizes access to information and communications technologies, including the Web, as a basic human right.

Why: The Case for Web Accessibility | W3C

W3CのWebサイトでは、このように書かれています。「さまざまな能力が異なる利用者に対して、同等なアクセスと均等な機会を提供するためには、Webがアクセシブルであることが不可欠です。実際に、国連の『障害者の権利に関する条約』では、Webを含む情報通信技術へのアクセスを基本的な人権の1つとして位置付けています。」

近年、諸外国では、Webアクセシビリティが “human right” あるいは “civil right” という言葉で語られることが増えてきています。日本語で言えば「人権」、「公民権」ということですが、つまりそれだけWebが社会生活の中で誰もが利用するツールやメディアとして広く普及してきたということでしょう。もしあなたのWebサイトが、障害がある人には使えないWebサイトだとしたら、それは障害を理由とした差別にあたるというわけです。

日本でも2016年4月から『障害者差別解消法』が施行

日本も例外ではありません。2014年1月、日本は140か国目として、この条約を批准しました。そのために『障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(いわゆる「障害者差別解消法」)』を2013年6月に制定し、2016年4月から施行しています。

ただ、日本では諸外国とは異なり、Webアクセシビリティの確保はさほど厳しく要求されていないのが現状です。Webアクセシビリティは「情報アクセシビリティ」の1つとして位置付けられており、これは公的機関も、民間の企業も努力義務という扱いになっています。

ただし、障害当事者から何らかの改善要望が出されたときには、よほどの負担でないかぎりは、公的機関は「合理的な配慮」を行うことが法定義務であり、民間の事業者は努力義務になっています。

Webアクセシビリティの確保が法律によって義務付けられるというのは、多くの皆さんにとっては違和感を覚えることかもしれません。とはいえ、諸外国に目を向ければそれが現実であることも事実なのです。

高齢者も含め、年々高まるインターネット利用率

時代や社会からの要請という意味では、ユーザーの高齢化という視点もあります。

総務省では、『通信利用動向調査』を毎年実施しています。2016年7月に公表された最新の調査結果(平成27年(2015年)調査)によると、年齢階層別インターネット利用状況では、13歳~59歳のインターネット利用率は9割を上回っています。60歳~79歳のインターネット利用も年々上昇傾向にあり、60代では76.6%、70代では53.5%となっています。

1. 適用範囲
この規格は,主に高齢者,障害のある人及び一時的な障害のある人(以下,高齢者・障害者という。)が,ウェブコンテンツを利用するときの情報アクセシビリティを確保し,向上させるために,ウェブコンテンツの企画,設計,開発,制作,保守及び運用(以下,企画・制作という。)をするときの配慮すべき事項について規定する。

JIS X 8341-3:2004
高齢者・障害者等配慮設計指針
-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-
第3部:ウェブコンテンツ」

これは、2004年6月に初めてウェブコンテンツの日本工業規格として公示された『JIS X 8341-3:2004』からの引用です。障害のある人に加えて、「高齢者」を挙げています。

Webアクセシビリティを考えるとき、一般的に欧米では障害のある人をユーザーとして想定しています。そこに「高齢者」を加えたのは、おそらく日本が初めてです。『JIS X 8341-3:2004』が公示された後に、同じく高齢化率が高まってきているヨーロッパを中心に関心が高まり、2007年前後からW3Cでも『WAI-AGE Project』が立ち上がるなどしました。

日本は、世界で最も高齢化が進んでいる国です。一般的に、高齢者は65歳以上のことを指しますが、日本の高齢化率は世界中のどの国よりも高く、今後も断トツで高齢化率が高まっていくことが人口推計データでも示されています。JIS規格に『高齢者・障害者等配慮設計指針』というシリーズがあるのも、こうした背景があってのことです。