ユーザー × 利用環境 × 場面・状況

Webコンテンツを利用するユーザー

ところで、ティム・バーナーズ=リー氏の言葉にある「障害の有無に関係なく、誰もが使える」というのは、どういうことを意味しているのでしょうか。Webコンテンツを利用するとき、私たちは次のような一連の動作を行っています。

  • 見る
  • 読む
  • 聞く
  • 理解する
  • 入力する
  • 操作する
  • 学習する

これらの動作のどれ一つをとっても、例えば視力が人それぞれであるように、私たち一人ひとりの能力レベルは実にさまざまです。

障害のあるユーザー

障害がある人は、次のように○○できなかったり、○○しづらかったりすることがあります。

  • 全盲の視覚障害があるために、画面を見ることができない
  • ロービジョンの視覚障害があるために、標準の表示や白い背景では文章を読みづらい
  • 聴覚障害があるために、動画の音声を聞くことができない、または聞き取りづらい
  • 認知障害、言語障害や学習障害があるために、文章を読んで理解するのが苦手である
  • 指先が震えてしまう障害があるために、キーボードでは入力しづらい、または入力できない
  • 手や指先を思うように動かせない障害があるために、マウスを使って操作しづらい、または操作することができない

ただ、この「○○できない」あるいは「○○しづらい」というのは、障害のある人に限ったことではありません。中高年やシニアのユーザー、そして年齢や障害の有無に関係なく誰にでもあることです。

中高年やシニアのユーザー

Webコンテンツを利用するとき、年齢とともにさまざまな能力が衰えてくるため、やはり「○○しづらい」ことが増えてきます。

  • 見づらい
  • 読みづらい
  • 聞きとりづらい
  • 理解しづらい
  • 入力しづらい
  • 操作しづらい
  • 学習しづらい

これらは、どれも先に述べたように、障害のある人がWebコンテンツを利用するときに直面している状況と同じといってもよいでしょう。Web担当者の皆さんも40代後半以上の方であれば、例えば、老眼で小さい文字が読みづらい、コントラスト比の弱い文字が読み取りづらいという経験をしたことがあるのではないでしょうか。

誰だって一時的に「○○できない」、「○○しづらい」という状況がある

さて、『JIS X 8341-3:2004』では、その適用範囲として「主に高齢者,障害のある人及び一時的な障害のある人」を想定するユーザーとして挙げていました。この中の「一時的な障害のある人」というのは、仮に障害があるわけではなく、また高齢でもなく、Webコンテンツを利用するときに普段は不自由を感じていない人であっても、一時的に「○○できない」、「○○しづらい」という状況にある人のことを指します。例えば、次のような経験、皆さんもしたことありませんか。

  • 屋外でスマホで見ていて、画面が普段よりも見づらかった
  • いつもしているコンタクトレンズや眼鏡がなくて、文章が読みづらかった
  • 周囲が騒がしくて、動画の音声が聞きとりづらかった
  • イヤホンを忘れてしまったため、周囲が静かな場所で動画の音声を聞くことができなかった
  • 急いでいたり、慌てたりしていたため、操作している画面の状況を落ち着いて把握できなかった
  • マウスよりもキーボードで操作したほうがラクなのに、キーボードだけでは操作しづらかった
  • マウスの調子が急に悪くなってしまい、キーボードだけでフォームを入力しなければならなかった
  • 利き腕をケガしてしまったため、利き腕ではないほうの手で操作しなければならなかった
  • 赤ちゃんを抱っこしていたので、片手だけで操作しなければならなかった

Webアクセシビリティなんて自分には関係ないと思っていても、実はWebコンテンツを利用している人であれば、「○○できない」ことや「○○しづらい」ことは誰にでもあることなのです。そして、これらもやはり、「○○できない」、「○○しづらい」という状況としては、どれも障害のある人がWebコンテンツを利用しているときに直面している状況と同じといえます。

多様化するユーザーの利用環境

近年、スマートフォンやタブレット端末の普及によって、Webコンテンツを利用するときに使用する端末が多様化してきました。いわゆる「マルチデバイス化」です。これによって、マウスやキーボードに加えて、タッチという新しい画面操作の方法が一気に普及しています。

世代別インターネット利用機器の状況
(総務省「平成27年度 通信利用動向調査」)
年齢層 パソコン 携帯電話
・PHS
スマート
フォン
タブレット
端末
全体(n=33,525) 56.8 15.8 54.3 18.3
13~19歳 57.4 7.4 78.3 23.5
20~29歳 73.3 8.7 91.3 20.4
30~39歳 68.9 13.0 84.6 23.5
40~49歳 71.5 17.5 73.6 24.5
50~59歳 64.9 20.8 54.8 20.1
60歳以上 38.3 20.6 15.9 8.1

さらに、音声で操作することも一般的になりつつあります。ウェアラブルデバイスも登場してきており、音声による操作も今後普及していくことでしょう。

利用環境という意味では、ブラウザだけを見てもGoogle Chrome、Microsoft Edge、Internet Explorer、Safari、Firefox、Operaをはじめ、もともと多くのブラウザがありました。同じブラウザでも複数のバージョンが使われていたりもします。

また、視覚障害のある人が使用しているスクリーンリーダーや点字ディスプレイ、画面拡大機能、マウスやキーボードを操作できない人が使用している代替デバイスや音声認識ソフトウェアなどもあります。例えば、スクリーンリーダーもOSによって製品が異なりますし、同じ製品でもやはり異なるバージョンが使われています。

このように、私たちがWebを利用しているときには、実に多種多様な利用環境があるわけです。

障害のある人の利用環境

障害のあるユーザーは、○○できない又は○○しづらいという状況で、支援技術とよばれるソフトウェアやハードウェアなどを使って、次のようにWebコンテンツを利用しています。

  • 全盲の視覚障害がある人は、スクリーンリーダーを使って、画面を読み上げる合成音声を聞いている
  • 全盲の視覚障害がある人の中には、点字ディスプレイを使って、画面の情報を点字に変換して指先で読み取っている
  • ロービジョンの視覚障害がある人は、画面を拡大して、色を反転している
  • 手や指先を思うように動かせない障害がある人は、キーボードガードを使ったり、大型キーボードなどの特殊なキーボードを使っている
  • マウスを使って操作できない人は、ジョイスティックやトラックボール、スイッチなどの代替装置を使ったりしている
  • マウスやキーボードを操作できない人は、音声認識ソフトウェアを使って、音声によって入力や操作をしている

また、ユーザーによっては、こういった支援技術に頼ることができない場合もあるため、Webコンテンツが提供すべきものもあります。

  • 聴覚に障害がある人が、動画の音声を聞くことができなくてもコンテンツを理解できるように、動画の画面にキャプション(字幕)を提供する
  • 認知障害、言語障害、学習障害などによって、文章を読むのが苦手でもコンテンツを理解できるように、図解、アニメーション、音声、動画などを用いた別バージョンも提供する

さまざまな利用場面・状況

主にスマートフォンやタブレット端末の普及により、Webコンテンツを利用する場所を選ばなくなってきました。それによって、私たちがWebを利用する場面も格段に増えてきています。

  • 電車やバスの車内
  • カフェやレストラン、居酒屋
  • 公園のベンチ
  • ラーメン屋さんの行列
  • 入浴中のお風呂
  • 就寝前のベッド

また、Webコンテンツを利用しているときの精神状態というのも、少なからず影響を与えるかもしれません。

  • 疲れている
  • 急いでいる
  • 慌てている
  • 注意力が散漫になっている
  • 集中力が途切れている

このように、普段とはやや異なる場面や状況でWebコンテンツを利用しているときには、いつもより「○○しづらい」ことがあります。

「人」だけでなく、「○○できない」、「○○しづらい」に目を向ける

「Webアクセシビリティ」を考えるとき、どうしても「高齢者」や「障害のある人」のような特定のユーザーグループに目が行ってしまいがちです。極端な場合、その特定のユーザーのために、普段なら絶対にやらないような特別なコトや特殊なコトをしなければならない。そんなイメージを抱いている人も少なくないようです。

しかし、こうして考えると、特定の「人」だけではなく、全てのユーザーに共通する「○○できない」、「○○しづらい」という状況にも目を向ける必要がありそうです。最新版のJIS規格『JIS X 8341-3:2016』では、適用範囲の中で「高齢者及び障害のある人を含む全ての利用者」と述べています。

0A. 適用範囲
この規格は,高齢者及び障害のある人を含む全ての利用者が,使用している端末,ウェブブラウザ,支援技術などに関係なく利用することができるように,ウェブコンテンツが確保すべきアクセシビリティの基準について規定する。

JIS X 8341-3:2016
高齢者・障害者等配慮設計指針
-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-
第3部:ウェブコンテンツ

このように、ユーザーがどのようにWebを利用しているかを考えてみると、以下の組み合わせによって実に多種多様であることが分かります。

  • 人による違い
  • 多様化する利用環境
  • 利用している場面や状況

Webコンテンツは、利用する一人ひとりが、自分に合ったカタチに変えて使うことができます。それがWebのいいところです。もし、あなたのWebコンテンツが特定の利用環境でしか使えないとしたら、本来ならあなたが手に入れることができたはずの様々な機会(ビジネスチャンス)を損失している可能性があります

だからこそ、ユーザーがWebコンテンツを好きなカタチに変えて利用できるかどうか、つまりWebコンテンツをアクセシブルにしているかどうかが、とても重要なのです。